EXHIBITIONS

BETWEEN:Landscape and You
Tokyo International Gallery、気鋭作家・真⽥将太朗による個展
「BETWEEN: Landscape and You」を開催
株式会社 Tokyo International Gallery(品川・天王洲)では、真⽥ 将太朗による個展
「BETWEEN: Landscape and You」を開催いたします。
真⽥が描く「新しい⾵景」は、窓のように作品と鑑賞者の間に空間を創出し、鑑賞者を包み込むように上へ上へと伸びていく作品は、⾒る者との対話を⽣み出します。
真⽥がこれまで制作してきたパブリックアートの多くは、その地で⼈々を繋いでいく絵画の⼒を、変容しながらもそこにあり続ける⾵景として展⽰されています。
本展覧会では、⼤作のほかに⼤型⽴体インスタレーション作品の展⽰を⾏い、「新しい⾵景」に没⼊できる空間を作り出します。


―Artist Statement―
「作品をつくる」という⾏為を⾃覚して絵を描いた最初期のモチベーションは、「現代を映し出す新しい⾵景を描き、多くの⼈に⾒てもらいたい」というものだった。
現代は混沌とした情報社会 で、⼈々は忙しさに追われている。そんな⽣活には、⽴ち⽌まって景⾊を眺めたり、⼼を落ち着ける時間が必要だ。そして、⽬に⾒えない恐怖から物理的・精神的な壁を簡単に作ってしまう時代 に、私の描く⾵景を通して他者と繋がる体験を共有してほしいという、少しの傲慢さもあった。とにかく、現代のための「新しい⾵景」を作る必要を感じていたのである。
「新しい⾵景」を描くためには、⾵景が形づくられる⻑い時間や、⾵景を⾒つめる私たちの⾝体が無意識に感じている重⼒などを感覚的に表現することが重要だと考えた。そこで役に⽴ったのは、
「⾵景は縦に伸びる」という感覚である。樹⽊は上に向かって真っ直ぐ伸び、根は地下に広がって
⾃然の景⾊を完成させる。地層や海は深く世界を⽀え、空や宇宙もまた驚くほどの⾼さで私たちの
⼩ささを強調する。建築物も基礎から⾼層まで縦へと積み上げられ、都市の景観を構成する。
こうした要素を画⾯に対して垂直の統⼀的な筆致で描き、時間の流れをグラデーションや残像のように表現しながら、⼀枚の平⾯に収めていく。実際の⾵景から⾊彩を抽出し、画⾯に再構築すること で、部分と全体、中⼼と周縁の違いを打ち消しながら、層を重ねていく。これが今の私にとって最も適した「新しい⾵景」の描き⽅だと結論づけた。
こうして完成する「Landscape」と名の付く作品群は、実際の⾵景から要素を抽象化し、新しい⾵景として再構築した⼤きな絵画のシリーズである。筆致や⾊彩の選択、構図の綿密な計画をもとに、それを現実に描き起こすことを⽬指している。
そして、制作中に⽣まれる即興的な筆の動きや予期せぬ変化を受け⼊れながら、さらに進化する⾵景を描き続ける創造的なプロジェクトである。歴史に根ざしつつ、⽇々変化する情報社会に呼応して⽣み出される絵画は、継承と変化という⼆つの要素を巧みに含んだ「新しい⾵景」として、私たちを⾒つめてくるだろう。
絵を描くのは⽣きている⼈間である。そのため、作者の意識に関わらず、作品には作者が⽣きる時代の断⾯が映し出される。写真が登場したことで、絵画の記録としての役割は薄れたと⾔われる が、それでも絵画が持つ時代性が作品の理解にどう影響するのか、改めて考える必要がある。
何も描かれていないキャンバスに絵の具が加えられるたび、絵画は不均質な要素に満たされてい く。この不均質さは不安定であり、要素同⼠の関係が⼀瞬で変わる可能性を秘めている。完成に向かう動的な過程を静かに映し出すのが絵画であるなら、作品内部で完結するものとして、絵画の記録媒体としての意義は今も失われていない。
そうして完成した絵画はその場にいる⼈々を取り込 み、現実に影響を与える⼒として⽬の前に現れる。私の絵画は、壁であると同時に窓である。空間を隔てているかと思えば、すぐに現実と虚構を繋ぎ、私たちとの関係を作り出そうとする。それはまるで絵画が私たちを⾒ているかのような感覚である。同じ絵を等しく⾒ながら、その絵に等しく⾒つめられる時間をあらゆる鑑賞者が共有し、そこに⾃⼰と世界を振り返る豊かな感覚が⽣まれるような、「新しい⾵景」を拓きたい。
―展評―
<機械>の再来
林 卓⾏(美術批評・東京藝術⼤学芸術学科教授)
真⽥の作品について、いまはその質を評価することは留保したい。ただいっぽうで、いま彼が向かうさきにあるだろうものについては素描することができる。
フランス語である種の絵画のことを〈機械=マシヌ(machine)〉と呼ぶことがある。たとえばロベール・オンライン辞典によ
れば、「巨⼤な機械=グランド・マシヌ(une grande machine)」とは「複雑な主題による巨⼤な絵画」を指す。⼀般には18世紀 から19世紀にかけてのフランスにおいて、いわゆる「アカデミスム」の画家たちが描いた⼀群の巨⼤な歴史画がその嚆⽮とされる。
真⽥の絵画は、そのようなアカデミスムの絵画とは似ても似つかないものだ。だが抽象化された〈⾵景〉に、時間の堆積や絵画とそれを⾒る者との対話、あるいは⾃⾝の⾃然観を積み上げ、さらには⼗⼆分な構想をスケッチに練り上げたあとの描画⾏為はすべてその構想の実現の⼯程なのだと語る点で、その絵画は〈機械〉に接近している。同⼀規格のカンヴァスや刷⽑の使⽤、描かれる形態の明瞭な輪郭、また正確に繰り出される垂線や周状の形態も、この印象を補強する。さらに本展に設置された渦巻状の仮設壁は、〈機械〉の起源のひとつとなった舞台装置ばかりか、〈機械〉がその後たどり着いた場所というべき19世紀のパノラマ施設
──それは「⾵景とあなたのあいだ」の⽂字通りの実現だ──を彷彿させもする。
もちろんこの種の絵画を〈機械〉とよぶ⽤語法は、たいてい批判や揶揄の意味を含んでいる。とくに19世紀後半のフランスでは、おもにエドゥアール・マネや後続の画家の擁護者たちが、先⾏するアカデミスムの絵画を揶揄するためにこの語を⽤いた。それに よれば、〈機械〉はたしかに複雑な主題を⼤掛かりかつ精巧に作品化し、ひとびとの⼼を効率的につかむ。だがそれはまた同時に作家性や独創性、制度ではなく個⼈に由来する作品ならではの抵抗、またそこから発⽣する⽣き⽣きとした質を⽋くものでもある。そしてこれ以降はしだいにあらたな「質」を有する作品のほうが、たとえば「モダニズム」の絵画として時代に適合すると説かれるようになってゆく。
現在、アカデミスムとマネらの関係はそのような単純な対⽴にはおさまるものではなく、もっと接近していたのだという理解がとくに近代美術史研究では常識にちかいものになっている。ところが〈機械〉がどれだけ⼤がかりで精妙でも、芸術作品としての質という点では⼀段劣るという主張のほうはほぼ覆されていない。わたしたちのあいだでは、作品としては荒っぽくとも、あるいはつましくとも、そこにこそ作家性や⼈間性が宿り、またそのことが作品の価値を⾼めるという芸術観が依然として⽀配的だ。
だが21世紀に⼊ってこの芸術観も揺らぎはじめている。そしてそのことは、かつての〈機械〉がまたべつのかたちをとってふたたびやって来つつあることと、表裏⼀体であるように思える。
この再来しつつある〈機械〉の代表が、近年の⽣成AIの助⼒を得て制作される⼤規模なインスタレーション作品だ。ときに⼈間離れした壮⼤な主題をきわめて⾼精度に扱うそれらの作品は、脱=⼈間中⼼主義的な思潮の後押しを得て芸術界で⼀定の地歩を築いていて、しかもその⼀部は、筆者のように頑ななモダニズムの⽀持者から⾒てさえ質が⾼い。⽣成AIを活⽤しながら制作されるピエール・ユイグやフィリップ・パレーノによる近年の⼤掛かりなインスタレーションは、そのもっともわかりやすい例だろう。あるいはAIの使⽤によらずとも、ジュリー・メレツがときにほかのアーティストを巻き込んで⾏う⼤規模な抽象絵画展⽰の試みを同様に考えてもよい。
本⼈の、そして周囲の好むと好まざるとにかかわらず、現在の真⽥の志向はこれら新時代の〈機械〉の台頭に親和的だ。あるいは真⽥の作品はこれら〈機械〉の系譜に位置付けることができるし、またその系譜のなかで質を問われなければならない。
アーティストプロフィール

真⽥ 将太朗
画家。2000年⽣まれ、兵庫県⻄宮市出⾝。
2024年に東京藝術⼤学美術学部を卒業、東京⼤学⼤学院先端表現情報学専攻修⼠課程に在学中(情報学修⼠)。クマ財団8期奨学クリエイター。
「新しい⾵景」をテーマとする⼤型抽象絵画が東京藝⼤在学中より注⽬を集め、Art Olympia 2022、藝⼤アートプラザ賞、東京藝⼤アートフェス優秀賞など数多くの賞を受賞。2023年には「Google Japan×Z世代アーティスト」第1弾アーティストに採択され、幕張メッセ「AI EXPO 2023」ではライブペイントを開催。
また同年JR東⽇本より依頼を受け、JR⻑野駅構内に永久常設となっている10mの⼤絵画制作を担当した。東京⼤学⼤学院進学後の2024年には台湾新光三越やGINZA SIX銀座蔦屋書店で個展を開催。
JR上野駅構内レストランの⼤壁画や⻑野県⻯王常設ストリートピアノへのペイントなどの全国各地における常設作品制作の傍ら、レーシングドライバー太⽥格之進やスキークロス⽇本代表中⻄凛のヘルメットデザインを⼿掛けるなど広く活動を続けている。
主な個展に『Process Landscape』(2024/銀座蔦屋書店)、『Solo Exhibition』(2024/台湾新光三越)、『OVER』(2024/STREET DREAMS STUDIOUS TOKYO)、『ACROSS』(2023/Bumpodo Gallery)など。
開催概要
- 展示会タイトル
- BETWEEN:Landscape and You
- 開催期間
- 2025年3⽉1⽇(⼟)〜2025年4⽉26⽇(⼟)
- 休館日
- ⽉曜、⽕曜、(⽔曜⽇は予約制)
- オープニングレセプション
2025年3月1日(土)17:00〜20:00
- 会場
- Tokyo International Gallery
- 住所
Tokyo International Gallery
〒140-0002 東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA Art Complex II 3F
Tokyo International Gallery は 2024 年 7 ⽉ 1 ⽇より、ギャラリースペースを⼀時 TERRADA ART COMPLEX Ⅱ(同館)の 3 階へ移転いたしております。
皆様にはご⾜労をおかけいたしますが、新しいスペースでも作家や作品の魅⼒をご体感頂けるような展覧会を開催して参ります。
皆様のご来場を⼼よりお待ちしております。